この数年のスーパーバイク世界選手権はジョナサン・レアの強さと速さ
が抜きんでています。その彼にとって不可欠な存在というのはどういった
ものなのでしょうか。

 チャンピオンになるには当然のことながら、速いマシンが必要ですし、
メーカーのサポートも重要です。また、チームの技術力なども必須のもの
だと思います。

 そんな要素は十分に理解できるのですが、この数年のジョナサン・レア
の快走ぶりと2019年シーズンの序盤にアルバロ・バウティスタがドゥカティ
で快進撃を続けて、劣勢から追いかける立場となった時や急成長を遂げて
厳しくマークしなければいけないトプラク・ラツガトリィオグルの存在
であったり、ヤマハの追撃がある中で厳しいシーズンを勝ち切ったレース
シーンを見ていて思うのはこのアイルランドのスーパースターの横で
スペシャルコーチとして助言を与えているファビアン・フォレの役割は
かなり大きいのだと思いますね。
https://www.paddock-gp.com/wsbk-interview-exclusive-fabien-foret-coach-de-johnny-rea-quintuple-champion-du-monde-1-3/

 2018年のシーズンの後半をほとんど開発することなく過ごして、2019年の
新型バイクで打倒カワサキを合言葉に高い戦闘力とアルバロ・バウティスタ
の勇敢なライディングでシーズンの前半を支配した時には、もうこのスペイン人
とドゥカティがワールドチャンピオンになるのだろうと思っていた関係者も
多かった。

 しかしながら、ワールドチャンピオンになるひとというのは欲深くて
あきらめが悪い。カワサキの力と自らの能力を信じて反撃に出たのですが、
そういう状況でのレースの戦い方であったり、チームを一致団結させて
勝利へと進む姿勢というのは、ファビアン・フォレの現役時代によく
見られました。

 このブログの愛読者の方々というのは私とファビアン・フォレとの関係性を
ご存知の方もいらっしゃるかと思います。彼がメガバイクホンダチームで
スーパースポート世界選手権で走っていた時ですが、彼のチームメイト
のミッシェル・ファブリッツィオはイタリア語しか話さないということで
体の空いていた私に話が回ってきて、通訳として特にショーワのサスペンション
エンジニアとの間の通訳をしていました。当然のことながら、近い場所で
ファビアン・フォレの仕事ぶりを見ることになったのですが、マシンの
挙動であったり、エンジンの調子などかなり細かい変化や動きを敏感に
察知して必要な情報をエンジニアやテレメトリストに知らせて、彼が
求めるセッティングを導き、他のマシンやライダーとの比較対象をすることが
できた。

 そして、驚いたのは彼がサーキット入りしたら、メカニックやチームスタッフ
にひとりひとりあいさつしてきて、握手して「このレースウィークよろしく
頼むな」と言葉を交わしていく。これは技術畑の人だけでなく、また私のような
チームメイトにくっついている人に対してもそうでしたし、ホスピタリティ
スタッフに対しても同じでした。

 私が根強い関係を有していたインターモトカワサキに移籍してきた時も
やはり同じようにチームメンバーと接していて、彼のライダーとしての
髙い解析能力と人間性でチームの皆が彼を勝たせようという空気ができて
いました。

 その彼がスーパースポート世界選手権のワールドチャンピオンになった
のは、とにかく速いホンダCBRとダンロップやミシュランに対抗して
ひとりのライダーのライディングスタイルに特化したピレリタイヤという
存在が大きかったのですが、むしろ、そのタイトルを獲った年よりもそれ以降
に彼のライダーとしての評価が高くなった気がします。

 テンカーテからカワサキに移籍して、当時のカワサキのスーパースポート
のマシンの低い戦闘力ながら、持っているスキルを生かしてライダーサーキット
と呼ばれるミザノで鮮やかに勝利したレース。

 私も同じチームのピットに居ましたが、メガバイクホンダ時代にテンカーテ
ホンダのセバスチャン・シャーペンティエと藤原克昭が手の付けられない速さ
を見せていた年に持っている勝負手を全て使って見事に優勝したアッセンでの
戦い。

 負傷した代役として急きょヤマハジャーマニーで走ることになり、持っている
適応能力とライダーの技術と戦術で三位を奪ったドイツでの快走。

 わが友ヨゼフ・クビシェックのインターモトカワサキに加入して、ほぼ
完ぺきなレースウィークの進め方をして難しいレイアウトでカワサキ勢には
不利ではないかと言われながらイモラでのレースを制して、チームにチェコ
以外のレースで初めての優勝をもたらしたバトル。

 ファビアン・フォレのキャリアの中での輝かしい印象深いレースを
振り返ると難しい状況であったり、急きょ代役として出走することに
なった時での見事な走りを思い出します。

 同時に彼と同じ場所にいて、チームをまとめる求心力であったり、
確かな解析能力によるマシンセットアップなどがあり、技術畑の人からの
信頼が厚く、同じチームにいる人で彼のことを悪く言うことがない。
そして、彼は母国語のフランス語だけでなくて、英語もイタリア語も
話す。

 そういった彼の経歴を見ていて、勢いとマシンとタイヤのパッケージング
とチーム力で世界チャンピオンになった時ももちろん評価されるのですが
それ以降のキャリアでの優勝や表彰台獲得時の印象がとても強い。

 2019年のスーパーバイク世界はジョナサン・レアはかなりの劣勢からの
反撃によってワールドチャンピオンになったのですが、形勢が不利な状態
で何を優先順位の上にした方がいいのか。どこを技術スタッフに手をつけて
もらうのか、どういう方向性で戦うのか、相手が強い時に敗因を相手に
求めるのか、あるいはチーム内での責任を明確にするのか、しないのか
などということをファビアン・フォレの今までの経験から解決策を出して
もらい、突破口を見出して徐々にアルバロ・バウティスタとドゥカティに
迫っていき、さらに追い抜いて行ったような気がしますね。


 

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