東京から新幹線で名古屋へ向かう自由席の車内で近鉄が運転見合わせ
をしていたが、私が名古屋に着くころにはダイヤが復旧して、一安心で
白子駅へと向かう。近鉄に乗り、名古屋からの車窓からの風景が私の気持ちを
高ぶらせる。

 白子からサーキット行きの直行バスに乗り、サーキット到着。パドックへと
向かうとちょうど、グランドスタンドからパドックトンネルを抜けて、
ピット方向に行ったところで、プチェッティカワサキのチームマネージャーの
マヌエル・プチェッティと出くわす。

 彼が今回、ここに来ているのは彼のチームでスーパーバイク世界選手権
を走っているトプラック・ラツガトリォグルのサポートであるが、それだけで
なくて、このレースはカワサキの日本サイド、スーパーバイクのヨーロッパ
やアメリカラウンドで会わない人との打ち合わせだったり、あいさつ回り
もあるようだ。

 このあたりは以前、チームアルスターのフランシス・バッタが八耐
にやってきて、日本で一番お客さんが入り、バイクメーカーも各種
サプライヤーもスポンサーも力を入れていて、予算だったり、製品の
供給やチームとの協力体制などの最終決定権を持っている偉い人や
技術部門のトップと話をして、レースウィークの後にスズキの浜松の
本社の方に行って、翌年の契約に向けて、会談をするというスケジュールを
していたことを踏襲しているわけで、彼が会いたいと思っている人や
組織があるのと同時に、今の彼のプレゼンスから彼とお話したい人や
メーカーがたくさんいることを表している。

 思えばイタリア選手権やスーパースポート世界選手権で戦っていた
彼がこうして、八耐の週末に多くの人やメーカーから面談を申し込まれる
ということというのは、チームとしていかに大きくなってきているのか、
そしてスーパーバイク世界選手権で重要人物の一人になっていることが
よくわかる。

 彼とレース後のスケジュールで東京で見ておくべきところや成田への
移動方法やタイムスケジュールなどを話して別れる。カワサキの
ユニフォームを着ている人が多かったので、来年はフルファクトリーの
マシンになるのか、ヤマハから来ている話はどうなのか、トプラックは
来年、チームに残留するのか、ヤマハやホンダに行くのかという話を
聞けなかったのは残念だった。彼自身はいい条件でチームを運営したい
とか、仮にものすごい成長曲線を見せているトルコ人ライダーが他のチーム
に移っても、違う勝負手を持っているようで、それがどんなライダーと
契約するということなのか、カワサキから90%ファクトリーバイクから
100%になるということなのか、あるいはヤマハのマシンへスイッチすると
いうことなのか、時間を置いて聞けたらと思う。

 しばらく歩くと、今度は芳賀紀行のかつてのマネージャーだった、
荒木敏さんと会う。近況の話、彼のリハビリの話を伊丹十三監督の
『スーパーの女』で描かれていたことなどを交えながら話す。
私も揚げ物が好きだが、体に悪いがおいしくて、精神的には満足してくれる
という食べ物の話をしたり、イタリア選手権と鈴鹿八耐がかぶっていること
などを話す。彼の担当していた芳賀紀行は鈴鹿には姿を見せていない。
二人の息子がイタリア選手権のスーパースポートクラスを走っているわけで
イゴール・アントネッリやマウリッツィオ・ビターリがニコロ・アントネッリ
やルカ・ビターリのマネージャーでもあるように芳賀君も子供たちのために
サーキットに足を運んでいるのだろう。

 ピレリタイヤのエンジニアと顔を合わせる。私のイタリア語が衰えて
いないことをほめてくれてうれしい。一年ぶりに顔を合わせてうだうだ
話をするが、今回ここにはジョルジョ・バルビエールは来ていない。
昨年のピレリというのはモリワキレーシングと組んで、いいライダー
ラインナップと経験のあるモリワキというチームとのジョイントで
個人的には大注目であった。

 ジョルジョ・バルビエールとは昨年ここで一時間ほど長話をしたが
彼が『我々はここに勝ちに来た。我々には勝てるライダーと素晴らしい
チームとレースを征服する勝負手といいタイヤがある。』と言い切って
いて、それは多くのトップチームがブリヂストンとダンロップを使って
いるが、そこに対してピレリは一つのチームに資源を集中投下して、
特定のライダーのライディングスタイルにベストマッチのタイヤを
用意したり、他のメーカーが持ち得ない特徴のタイヤを供給したり、
チームと戦術を考えるというものあった。

 タイヤメーカーで言えばピレリがダンロップもミシュランも開発競争していた
スーパースポート世界選手権でテンカーテホンダからのリクエストで
一点集中型でファビアン・フォレの好みやライディングスタイルに
マッチしたタイヤを用意してダンロップバックアップチームや
ミシュランユーザーライダーを撃破して、世界タイトルを奪い取った時に
十分理解していました。

 同じことを昨年の鈴鹿八耐でやろうとしていて、そのための準備や
ライダーやチームとの協力体制ができているから、彼が野望に満ちた
言葉を口にしていたり、旧知の私だからフランクに話していたのだと
思う。

 そのことのトライと準備は行なったのだが、残念ながら結果には
レース直前の通り雨に伴うタイヤチョイスがあり、それが失敗に終わった
から実を結ばなかったが、彼とピレリの勝負に対する欲深さというものは
よく理解できました。

 今回、ジョルジョ・バルビエールは不在で、彼から今年に関する
欲深い言葉が聞けず、ピレリのイタリア人エンジニアもまぁ、トップチーム
との付き合いが今回はないということでピレリ陣営からギラギラした空気感
が感じられないのは大変、残念でしたね。

 彼と別れて久し振りに来日したマコレーシングヤマハのチームマネージャー
と広報担当者会う。

 アイスホッケーが国技の国の彼らが真夏の鈴鹿に来るのは大変
なものがあるが、とんでもない暑さでもレインコンディションになっても
いい成績となればいい天気ということになると話してくれた。

 実際に彼らが2009年に来日して、ヨシムラスズキが優勝した時には
台風がサーキット近辺をかすめる状況で豪雨となり、セーフティーカーが
四度も出動するレースだったが、彼らにとっては恵の雨となり、
マシン的なハンディキャップが少なくなり、望外の成績を得ることが
できたわけで暑すぎても今週末が雨でレインレースとなっても、
鈴鹿のこのレースウィークだけのために莫大なお金とテクノロジーを
費やしているチームが上位を占めているなかでいい成績を残すのは
どんな天候でもいいということなんだろう。

 彼らと会った時に聞きたかったことが、スロバキアリンクの話であるが
世界耐久選手権のスロバキアラウンドは昨年と今年でおしまいで、
しばらくはカレンダーに戻ってこないだろうと言われる。まぁ、
マレーシアのセパンが来シーズンからカレンダーに入り、スパフランコルシャン
が次々回のシーズンから開催される。開催権料や観客動員などのことを
考えると開催許諾に関して出された経済的な条件などがスロバキアの
バイク人気や地元のスポンサーやサーキットのキャパシティを越えてしまった
ということだろう。

 パドックの一コーナー寄りのほうに足を運ぶと、今日一日の中で一番
のビッグサプライズを感じてしまう。何とBMWのプライベート
チームのピットでアンドレア・グリッリーニの姿を見る。

 昨年のスーパーバイク世界選手権にスズキのマシンを用いて、
ライダーにロベルト・ロルフォを起用して参戦するという発表をして
スズキのリッターバイクが競争力を有しているのか、経験のあるトリノ人
ライダーのロルフォがどれだけ走るのか個人的にとても注目していたのだが
シーズン直前に財務関係で問題があり、当局に拘束および摘発されてしまい
彼のチームのアクティビティは白紙に戻り、彼と契約していたライダーは
浪人することになってしまった。
(詳細はこちらhttps://www.motorcyclesports.net/wsbk/superbike/grillini-racing-boss-arrested-suspicion-money-laundering/

 その彼の行方や次の一手は知らなかったのですが、それが世界耐久
選手権でBMWで戦うことや組織は同じだったり、スーパーバイク世界選手権
で使っていたシステムを流用したりするは全く知らなかったので、
こうして彼の姿を見ることができるのは、驚きではありました。

 まぁ、MotoGPにおけるMoto2,Moto3はお金がかかり過ぎるし、
スーパーバイク世界選手権にはシーズン直前に起きた一件で再出走しよう
にもメーカーやDORNAにも精神的な嫌悪感があると思うので、この
世界耐久選手権というのは、持っている経験や技術的な蓄積やチームの
インフラを使うという部分では適しているのかなと思いますね。

 どんな過去があっても、再チャレンジということはあってもいいし、
チームが運営できるのであれば、参戦してもいいと思うので、彼の
姿を見て、あんな一件からチームが成長したら、過去に色々と問題が
ありながら、世界選手権で戦っている方々のロールモデルになると
思う。(ただし、壁は分厚くて高いし、色々なメーカーがちゃんと
払ってくれるのか気になるとは思う。)

 その後、予選が終わり、夜間走行となったところで、雨が強くなり
赤旗となり、今日のセッションは終了。台風がやってきるが、その
台風が直撃なのか、かすめるのか、台風の影響が大きいのか小さいのか
でレースウィークのスケジュールが大きく変動するし、ライダーやチームが
やる気があっても、マーシャルがサーキット入りできないとかドクターヘリ
が飛行不可能なんて状態となったら、土曜のストック600による四時間
耐久もできないだろうし、八耐のスケジュールも変わり、金曜日の結果が
予選結果として認定されるということにもなるだろう。

 台風情報に目を離せない金曜日の夜と土曜日の朝になることを実感して
強い雨になったサーキットから自宅へと向かった私でした。

 

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