強い横綱の一強体制はつまらない。群雄割拠が面白い。そんな私にとって
カワサキとホンダのワークス体制の復帰とこの週末のとりわけジョナサン・レア
とレオン・ハスラムの脅威のタイムは私に面白いレースを期待させてくれるもの
でした。しかし、勝者はR1で中須賀を欠いてアレックス・ロウズと
マイケル・ファンデルマルクの二人で八時間を走りきったヤマハファクトリー
チームでした。

 中須賀が走れないと思った、あるいは彼を走らせるのは難しいと考えた
という時点で彼らのR1は耐久仕様ではなくて、海外から招聘したスーパーバイク
世界選手権で走らせているスペックとほぼ同じマシン設定にして乗りなれて
いる乗り味にして、『八時間耐久』ではなくて『一時間のスプリントを八回』
ということを徹底的に突き詰めたこと。そして、雨が降ってもライダーも
メカニックもエンジニアも全てのチームスタッフがやるべきことをしっかりと
やりきって作戦と戦術をやりぬいて高いラップタイムペースをどんな路面温度
でも雨が降ってきた16時台後半から路面が乾ききっていない17時台前半でも
できうる限りの速いタイムで鈴鹿という難しいサーキットを走りきったこと
はまさに王者の走りだったと思います。

 一方、ヤマハ追撃の一番手であったカワサキにとっては、厳しく難しい
結果となってしまいましたね。

 予選の王者は彼でした。しかし、八時間をトップで走りきってチェッカーを
受けるには足りないものがありました。

 もちろん、カワサキも全てが八時間のレースで順風満帆で行くことが
ないわかっていて、何かが起きた時のために様々な状況のシュミレーション
はしていました。しかし、周回遅れのライダーをオーバーテイクする時に
普段走っていないラインを走ったり、ブレイキングや加速をした関係で
思いのほかガソリンを消費したためかガス欠で緊急ピットインということに
なってしまいました。

 かつてのセテ・ジベルナウとバレンティーノ・ロッシの激しいバトルの
タイトル争いをしている時代のレースを知っている方々はレース後半で
ブルノでガス欠したときのことを思い出したかもしれませんね。

 そして、雨が降りセーフティカーが走って、レースをコントロールしていた
中での思わぬ転倒。

 サーキットには美しいファンタジィと醜いリアリティがありますが、土曜日
に前者を感じたカワサキ陣営は日曜日の後者を感じることとなってしまい
ました。

 昔からのこのブログのファンの方は私が藤原克昭の通訳をやっていたことを
ご存知の方もいると思いますが、レース後に彼と話していて、ヤマハが中須賀
が走れなくなって、マシンをスーパーバイク仕様にしてきたことや磐田の
メーカーの長年の蓄積や経験で勝つ術や戦術があったのが大きな違いだった
と話してくれました。

 まぁ、彼自身もライダーとして八耐を走っていて勝利をほぼ確定的に
していながら、トップを走っていて、勝てなかったこともあり、一つ世界
格式のレースで勝つことの大変さや難しさを肌身に感じているのですが、
経験の差や勢いだけでは勝てないことなどを改めて理解することと
なってしまいました。と同時に成功体験よりも失敗体験の方が教科書に
なるということが脳みそに突き刺さりました。

 今回のレースでヤマハのメーカーやチームとしての強さとカワサキの
とスーパーバイク世界選手権のワールドチャンピオンの速さと勝利には
速さだけでなくて、運であったり、経験というものが必要であることが
明らかになった日曜日の夜でした。

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