鈴鹿の8耐というのは日本人にとっても特別なレースですが、多くの
レース関係者も絡んだ世界的にも興味を持たれるビッグイベントです。
私も今回は色々な絡みがあって出かけることになりました。

 我が家を出て、近鉄に乗り名古屋駅へ。そして、名鉄に乗り換えて
中部国際空港駅に到着。地元の身びいきで言うわけではないがアクセスが
いいし、使い勝手がいい空港である。

 そのいい空港に初めてやって来たのが我が友マウリツィオ・ビターリである。
彼が現役のグランプリライダーであった頃は名古屋でも小牧の空港と大阪便は
伊丹空港だったわけで、AGVのサービスパーソンとして初めてこの空港に
降りることになったが、全てが新しい上に導線がしっかりしていて移動
しやすいのですぐに到着ロビーに来れたと驚いていた。

 彼のリクエストに応えて、SIMカードの購入に行き、その後、レンタカー
オフィスへ向かい、その足ですぐに鈴鹿へ出発。強い雨で伊勢湾岸自動車道
から東名阪自動車道へと入る。気になるのはこの週末の天気のことで台風
のリスクはないが、逆に暑くなると話す。彼にとって想像以上の暑さだった
のがバレンティーノ・ロッシがホンダ入りして二年は8耐に出るという縛りが
あって、出場した時のことでその十年以上の年月に彼は歳を重ね、日本の夏は
厳しさを増していることを考える。

 ホテルに荷物を預けて、サーキット入り。木曜日でしかもまだ太い粒の
雨が降っていることもあって、観客席はまばら。パドックもすぐに走行後に
ピットに居るか、オフィスに入るかで人が少なく感じる。

 ポル・エスパルガロに挨拶して、私はパドック内を歩く。先日の公開テスト
の時に顔を合わせなかった人やその時に不参加のチーム関係者と比較的時間の
あるうちに会っておきたい。

 そんなことを思っていたところにダビデ・チェカが現れる。私も昨年の
8耐には来ていないから実に久しぶりに感じるが、昔も今も気軽に声を掛けて
くれてうだうだ話す。実に彼らしいと思ったのが、いい天気の時も酷暑の
ケースも雨が降った時もここで走っていたが、彼にとってはいい成績を
残せるチャンスがあるときがいい天気であるということ。彼いわく、
できれば雨が降ってトップ集団、ホンダとヤマハのメーカーの力の入った
チームとの戦闘力の差が縮まって欲しいというのが本音であることを
話してくれた。

 しばらくすると目の前を歩いてきたのがセバスチャン・ジャンベール。
彼というとグランプリでの活動期はホンダ系で、その後スーパーバイクの
フランス選手権ではヤマハのイメージが強いが、ホンダのリッターバイク
に乗る彼の姿というのは新鮮なものを感じる。

 雨が止んで、人の流れが活発になったころに出くわしたのがピレリの
エンジニア連中。先週のスーパーバイク世界選手権のUSラウンドでは
痛ましい事故があったことやアメリカ人のオーガナイズに不満を持っている
せいか、この鈴鹿が楽しくていいと話してくれた。

 8耐のセッションが終わり、4耐の走行時間となり、ピットから人が出てくる。
やはりというか当然というか、ケーシー・ストーナーの人気というのはレース
ファンで高く、ここだけは警備員が張り付いている。ただ、そのチームメイト
にはサインや写真を求める人はほとんどいない。STK600、SSと順調に
出世街道を歩んでいるマイケル・ファンデンマルクはSBKに来るまでの走りを
映像で見ることが少なく、SBKでマシンの戦闘力に比例して、どうしても
上位陣の壁が厚いことで中団を走っているから知名度が低いのだろう。
個人的には近い将来が楽しみではあるが、コアなファン以外には人気が
ないことを実感する。

 天候が回復したこともあって、グランドスタンドで走りを見たくなり、
パドックから移動。祭りの前の下準備感が漂う木曜日のグランドスタンド
裏の空間を歩いていて、今回4耐に出場しているオージーライダー二人と
話す。

 日本のレースファンにとって非常に意味のあるレースで、多くの業界
関係者が来場するこのウィークで登竜門的レースの4耐でいい走り、好成績
を上げれば近い将来に明るい道筋が見えてくることなどは彼ら二人も十分
承知だったのが印象的で、たくさんのメーカーやチームが分厚く活動したり
サポートしているから、それにともなってキャンペーンガールもたくさん
来るから頑張ればいいことが起きるかも知れないと話すと笑っていながら
納得していた。

 まぁ、お金持ちになりたいとかおねえちゃんにもてたいという欲望が
あって、その欲を満たすために体力、知力、精神力を使ってのし上がろう
というのは正しいことで、私がこうして英語を話したり、イタリア語の
通訳したり、フランス語で会話するのも、原始的な欲求を満たすために
コミュニケーションの道具は日本語一つでないほうがいいということで
実際に今まで色々な国でいい思いをすることもあったから、欲深さが
持っている能力を高めたり、進化や成長を促すからいいことだと思う
と話すと喜んでいましたね。

 しばらくグランドスタンドで8耐のセッションを見た後、パドックへ戻る。
SERTのピットへ行くと、先日の公開テストの時にバンサン・フィリップに
紹介されたメカニックと会い、しばらくうだうだ話す。そこに知らない
エンジニアが登場。私のフランス語を褒めてくれる。

 素直に謝意を示した後に、私はフランス語は上手くない。というわけで
上手くないからこそ、こうしてフランス語を話す機会があった時に必死
こいて話すようにしている。ところが多くの日本人は上手くないという
実感があったり、まだやり始めて日が浅いという連中は機会があっても
話そうとしない。これは本当に言語の習得の害悪だと思っていて、
レースと同様成功体験よりも失敗体験の方が教科書になることを理解
しているから上手くなくても話しているし、下手なのはよく実感している
と話す。まぁ、エンジニアなのでこういう進化や成長のプロセスは何度も
経験しているせいか深く理解してくれたようだった。

 その後、エルワン・ニゴンと会う。ラィデングブーツにハンドメイドで
小さな穴を空けて、通気性を良くして、少しでも快適なライディングにしたい
らしい。まぁ、何もしないよりはいいことだし、これだけのことをしているから
タイムが上がるだろうとか、ブーツ内の発熱を記にしなくていられるだろうと
暗示をかけているようでもある。

 その後、マウリツィオと合流し、先週のイタリア選手権のイモラの話を
聞いているうちにここを離れる時間となり、平田町駅へと移動して、帰宅。
長い一日が終わった。

コメント