今年のMotoGPのシーズンを眺めていて、ヴァレンティーノ・ロッシの最後が近くなって
きたように思いました。

 勝ち気であること、負けず嫌いであること、欲張りであること、悪魔性を有すること
などチャンピオンに必要な要素というものがあります。ヴァレンティーノの今までのキャリア
を見てきたら、彼が世界の頂上に立ちたいためにできうることを今までやってきたように
思います。

 ホンダのバイクとブリヂストンタイヤ。ライダーの能力と素晴らしいパッケージで玉田誠が
未来のスター候補生から勝てるライダーになり、ヴァレンティーノを脅かすような展開に
なった時に彼はライダーの持つプライドをよく理解して心理的な戦争を仕掛けました。

 玉田誠は自らの力で勝っていることを証明したい。そして、同じタイヤメーカーに
製品を使用してヴァレンティーノに勝ちたい。単純にライダーとして走るうえで素朴に
思うことを口に出したり、チームに話をして供給交渉に乗り出し玉田誠の所属している
チームはブリヂストン陣営からミシュラン陣営にスイッチしました。

 長い期間、ミシュランのタイヤ開発に協力してきたヴァレンティーノ。彼の好みの
特性にできているタイヤ。そして、前の年までミシュランを叩き潰すためにタイヤの
テストをしてきていたチームのライダー。タイヤの開発、改良はヴァレンティーノの
ライディングや方向性に従って行われ、玉田誠と彼のスタッフが求めるタイヤとい
うものが独占的に手に入れることはできずに世間的な評価は同じタイヤを使用したら
ヴァレンティーノは玉田誠よりも速く。日本人ライダーの成績はブリヂストンがよかった
からだという理解のされ方をしました。そして、玉田誠は非常に評価を落としました。

 ヴァレンティーノ・ロッシはこうして脅かすライバルを蹴落として自らの立場を有利な
ものにしました。

 しばらくヴァレンティーノ・ロッシは安泰でしたが、ケーシー・ストーナーとドゥカティと
ブリヂストンタイヤが優勢となり、タイトルを奪いました。

 ブリヂストンのタイヤの強力さと速さを目にしたヴァレンティーノはどうしたのでしょうか。

 ヤマハチームは歴史的にずっとミシュランとの密接な関係性を維持してきました。
しかしながら、山田宏氏率いる日本のメーカーの競争力の高さを見て、彼は劣勢と
なったミシュランタイヤの技術を高めてブリヂストンを叩くということをある時期から
諦めてブリヂストンタイヤを欲しがるようになりました。

 ブリヂストンとしては複数メーカーによる戦いの中でブリヂストンが勝利することで
ブランドイメージを高めたい。しかし、ドルナのカルメロ・エスペラータ氏との会談の
際に『非常に強い要望』をされます。それが受け入れられないとタイヤワンメイクに
よる選手権運営を考えていると言われました。

 既存のブリヂストンユーザーチームからの懸念、そして、ヤマハファクトリーチームに
ブリヂストンとミシュランのライダーがいることでの技術の漏洩など非常に難しい議題
でしたが、ブリヂストンはヴァレンティーノ・ロッシにタイヤを供給することに決めました。

 ヴァレンティーノ・ロッシが勝ちたいと思った時に彼は自らの欲望に忠実であり、
持っている悪魔性や政治性を発揮して、道具を使うスポーツの中で必要な道具
であったり、環境であったり、システムを獲得して持っている速く走る能力を発揮して
タイトルを獲得してきました。

 ドゥカティでの二年。そして、ヤマハに戻ってきてのこの一年。彼よりも若くて元気が
あって、勢いも野望も有しているスペイン人を前にしてヴァレンティーノ・ロッシの
欲望が薄くなっているような気がします。

 果たして彼は毒を持った強い野望や大きな欲望を持ち続けることができるのでしょうか。
勝ち続けてきて、敗戦も経験して、さらに王座に戻って、イタリアのメーカーでタイトルを
取るという夢が敗れて、ヤマハに戻ったら最年少のワールドチャンピオン誕生を見ることに
なり、新時代や自らの年齢を実感することとなった。

 ヴァレンティーノ・ロッシの欲望が尽きているのでしょうか。契約はまだ一年あります。
全盛期は過ぎたように思えますが、オランダで見せたように勝てるライダーではあります。
テニスの世界で王者から陥落して将来が注目されている友人のロジャー・フェデラーと
どんな話をしているのでしょうか。気になるところです。

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