四月二十四日

 日本グランプリの初日である。ただ、昨年までと違って、金曜日の午前の
セッションはない。そのため、九時過ぎに水戸のホテルを出て、十時頃に
サーキット到着となった。

 ルーカ・ビターリは期待と不安が入り混じった気持ちである。
これは彼のチームメイトも同様であった。

 サーキットに着くと、前日姿を見なかったジャーナリスト連中が群れを
作っていた。その中にいるのがジョバンニ・ザマーニ、マルコ・マセッティ
であった。久しぶりの再会に話に花が咲く。

 昨日はさすがにファンがほとんどいなかったパドックであるが、
今日は人がかなり集まってきた。そして、暖かいこともあって、かなり
露出度の高い服を着ている人も多い。

 カルロ・ペルナットの親父さんが目をつけた女性と話したいということで
くっついていく。まぁ、英雄色を好むというのは確かで、ヴァレンティーノの
ファンで、イタリア語を勉強し始めたという女性に声を掛けて、口説いている。
その通訳をやる羽目になったのが、この私である。

 そこに通りがかったのが、エルベ・ポンシャラルである。
決勝日のグリッドガールを探していた彼が、ペルナットやザマーニ、
パパカピロッシとつるんでいたところやってきて、耳元で『この娘に日曜に
グリッドで傘を持ってくれるように頼めないか』とフランス語でつぶやく。
カルロ・ペルナットの親父は昔からフランス語もわかるので、何を言っていたのか
即座に理解して、『おれがマネージメントをやってあげるよ。私はカピロッシ、
デアンジェリス、シモンチェッリ、カネパといったあたりのマネージャーだから
お金とか条件面とか話せるからな』などと言っている。

 払ってモデルを用意できるなら、とっくに払って話をつけているはずなので
このカルロの提案は招かざる客といったところだろう。冗談混じりに
『カルロはいらないから。そんなに払えないし。』と言っていたエルベで
あった。

 そんなわけで、私がこの女性とくっついて、モンスターヤマハのピットに
入り、今後の予定を打ち合わせて、納得してもらい、土曜に衣装合わせ、
日曜に本番ということで話がまとまった。

 その現場に今回、poliniがこのモンスターヤマハのスポンサーであり、
日本グランプリのタイトルスポンサーということもあって、旧知のマネージャー
が姿を現した。久しぶりの再会で喜びながらあいさつする。
私のことを昔から知っているモンスターヤマハのチームクルーはいつものことだ
と思っているが、初めて私を見た人はフランス語でグリッドギャルの話を
進めた後に、poliniのスタッフとイタリア語で話し始めて驚いていた
ようだった。

 私の携帯が鳴り、ちょっと助けてほしいと言われ、イタリアの放送スタッフ
の方に顔を出す。今回、彼の友達がサーキットにやってくるということだが
パスの支給場所、発給の仕方などに手続きが必要で、そのことを訳してほしい
と言われ、彼の言う通りに伝えて、お礼を言われ、ここで飯を食べていけと
言われて、お弁当をごちそうになる。

 そうこうしているうちに125㏄のセッションスタートである。今回好調の
イアンノーネとは親父を含めて、色々と思い出があるが、彼がチーム
アブルッツォで走っていた時には大したことのない、払って乗るライダー
だと思っていたが、昨年からの成長ぶりは素晴らしい。
気になるのは、ステファン・ブラドル。何かがかみ合ってからの彼は
本来持っている能力を発揮できるようになって、自分の力を信じられるように
なった気がする。

 長い付き合いのもう一人の二世ライダーのルーカ・ビターリであるが、
大苦戦である。まぁ、イタリア選手権で飛びぬけていたわけでもなく、
開幕前にテストをたくさんできたわけでもないので、仕方ないかという
感じではある。

 MotoGPクラスについては、改めて思ったのは走っている台数が少ないな
というものである。そして、今二つ感のあるスズキのバイク。シーズン前に
マセッティあたりも今年はスズキが面白いと話していたのだが、カタール
とここでの爆発を感じなかった。明日は雨である。どうなることやら、
ヴァレンティーノショーの始まりを感じたセッションであった。

 250は今年のライダーラインナップの面白さを感じる中で、帰ってきた
シモンチェッリの鮮やかな復活である。そして、わが友タルマッチの
250での走りを初めて生で見たが、まだやることが多いと言いながらも
いいタイムを出しているところに彼の能力の高さを感じた。

 バルベラの今一つ感、ワイルドカードライダーの今二つの走りを
見終わってから、イタリアのテレビ解説のレッジャーニに情報収集を
頼まれて、それを手伝い、シャークヘルメットに質問攻めにあい、
それに応えて、さらにニコロ・カネパとうだうだ話しているうちに
陽が落ちだした。

 マウリッツィオの運転する車に同乗し、水戸へ行き、例によって
日本食レストランを探し、一緒に鮨を中心に食事をして、お休みということに
なった。

コメント