オーストラリアの日曜日の午後。二人の主役が戦いを
繰り広げました。片や世界王者にして世界ナンバーワンの
ロジャー・フェデラー。一方のサイドにはロディックでも、
ナルバディアンでもリュビチッチでもなく、このトップテン
プレイヤー三人を打ち破ってきた元ジュニア世界チャンプ
でこの大会に53位でエントリーしてきたマルコス・
バグタティス。勝ちすぎて勝つことが当たり前になって
勝利に慣れてしまったスイス人の応援を背にするフェデラーと
国中を熱狂の渦に叩き込んでいるバグダティス。主役は
二人。しかし、優勝者は一人です。その頂に二人が
挑戦しました。

世界の列強を破ってきて波に乗るバグダティスが持ち味を
発揮して第一セットを先制しました。スコアは7−5。
パリのキプロス人の頭脳とフットワークは今日も健在であり、
王者を苦しめ、そして攻め続け、めぐってきたチャンスを
捕らえ、このセットを奪いました。

第二セットも緊張感のある展開。フェデラーの本来の姿
とは言えない出来にアップセットの予感が会場と
世界中のテニスファンの脳裏に宿ります。

しかしもつれた展開ながら、いい時は楽に勝ち、悪いときでも
悪いなりに勝つことを知っているのが王者であり、今日の
フェデラーもそれをまっとうします。タイブレイクにもつれる
かに思えたセット終盤でしたが、このセットを7−5で
奪いワンセットオールへ。

ここからどんな大河ドラマが展開するかに思われたが、
バグダティスのサービスの入りが悪くなり、それを見逃さず
牙を剥いたのが悪魔の心を戦いの場で持つことができる
世界チャンピオン。このセットをベーグルで奪うと、
疲れからか動きのシャープさを欠いてきたチャレンジャーを
圧倒。結果は第四セットも6−2で奪い、フェデラーの勝利と
なった。

プレッシャーから開放されセレモニーの途中で泣き出した
フェデラー。精神的にも強すぎる彼であるが、ファイティング
サイボーグでなく人間であることを示したシーンであった。

逃がした魚の大きさと足の痙攣などもあり本来の力を
出し切れずに弱みを見せて敗れたバグダティス。悔しさが
にじんだ様子であった。

王者の人間性の発露と挑戦者の闘魂の露呈が見えた表彰式。
またテニスの歴史にスコアとともに新しいストーリーが
生まれたメルボルンであった。

ウィナーはフェデラー。見事な戦いぶりとうまさと強さで
あった。

しかし、この大会を盛り上げたのはキプロスという小国から
生まれ、少年のころからフランスで腕を磨き、体ひとつで
ここまでやってきたバグダティスであった。
彼のリアル全力少年ぶりにウィナー以上に印象的な
ヒーローが存在することをまた私は知ることとなった。

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