スーパーバイク(SBK)世界選手権のカタールが終わり、
次はオーストラリアです。世界中のレースファンにとって
それぞれ忘れられないレースというのが存在すると思うの
ですが、私にとってかつてのフィリップアイランドでの
SBKのレースは忘れられないものです。今回はこれを取り上げ
ます。

現在、SBKに参戦しているメーカーは日本のホンダ、ヤマハ、
スズキ、カワサキにイタリアのドゥカティ、マレーシアの
ペトロナスですが、かつて日本の四メーカーにドゥカティ、
アプリリア、そしてさらにビモータが参戦していたシーズン
がありました。

私はリミニという町で勉強していた時期があり、町の真ん中
から自転車で30分ほどのビモータのオフィスと工場に
取材に訪れたこともありました。その時に抱いた感想という
のがまるでフランソワ・トリュフォーが美しい足を持った
女性に抱いた気持ちと一緒でした。美しいバイクに魅せられ
ましたね。同時にあのメーカーが従業員50人ほどの規模と
いうのが強く印象に残りました。

その小規模メーカーが日本の四台メーカー、世界チャンプの
ドゥカティ、RSVを引っさげて殴りこみをかけてきたアプリリア
と戦うと知ったときにどうなることやらと思いました。

ライダーは実力はあるがそれが様々な理由から発揮すること
がまれだったアンソニー・"GO SHOW"ゴバート。開幕は
大した成績を収めることなく彼の母国のオーストラリアを
迎えました。

エンジンの方も車体などもまだまだ他のメーカーとは実力に
開きがあり、まだまだやるべきことが多いと実感させられた
レースを終えてオーストラリアへ。レースの舞台のフィリップ
アイランドは長いストレートに高速低速コーナーがある
マシンもライダーも実力が問われるサーキットです。

日本やヨーロッパでは春ですがオーストラリアでは秋。
決勝当日のフィリップアイランドは天候が微妙でライダー、
エンジニア泣かせの状況でした。

そんな天候は競争力に乏しいビモータとゴバートにとっては
トップスピードの大差やコーナーリングでのライバルとの差異
が出にくいコンディションになりました。

そんなコンディションでレースはスタート。難しい状況で
文字通り雨に足元をすくわれたり、セッティングが決まらず
思うように走らないライダーが続出する中、地元の声援に
燃えるゴバートは雨を見方にライバルをどんどんオーバー
テイクしていく。

よく集中し、地元の応援に応えハートは燃えて頭はクールに
素晴らしいマシンコントロールで周回を重ねていく。

十分なリードを築いて日本の四大メーカー、世界チャンプの
ドゥカティ、そして同じイタリアのメーカーのアプリリアを
従えてラップを重ねていく。緊張感と余裕が程よく混じった
状態でまさにライダーズハイのような状態で走り抜けて
世界の列強の反撃を許さずに誰よりも早くチェッカード
フラッグを受けた瞬間。ビモータのピット、リミニの工場、
地元ライダーの偉大な勝利を喜ぶフィリップアイランドの
観衆は爆発しましたね。

オーストラリアまでのレースを見たところ、誰もこんなことを
考えられなかった奇跡が起きた瞬間でした。
小さなメーカーの大きな勝利。そして空が泣いたときに
アンソニーが笑った彼の一人舞台のGO SHOWでした。

その後モンツァで我々は会い、この祝福の言葉をビモータ
の関係者やアンソニーにかけたらひどく驚きながら喜んで
いましたね。まぁ、日本人がイタリア語と英語を話して
リミニの従業員50人のメーカーの勝利を祝福されるなんて
ことは予想できなかったのが理由のようですが、グッドラック
があったにせよ、かなりのリスクをしょって世界選手権に
出てきたこと、レースをきちんとコントロールして勝った
ことなどあの難しいレースの勝者には当然掛ける言葉は
たくさんあった私でした。

残念ながら、その後、イタリアのミザノアドレアティコという
彼らの本拠地から12キロ程しか離れていないホームタウン
レースに彼らは姿を見せませんでした。アンソニーを擁し、
世界選手権に参戦することが出来たのは資金的な裏付けがあって
のことなのですが、この年の彼らのスポンサーというのが
以前F1のアロウズで実体のないスポンサーの名前を出して
金を出すと言いながら出さずにあの世界から追い出された
男が関わっていたところでして、同じことを今度はSBKを
舞台にしてやってしまい、資金的なバックを失ったというか
始めからなくて、それがわかったビモータが再び走ることは
なくなってしまいました。

いまだにあの時からビモータのマシンをSBKのサーキットで
見ることはありません。しかしながら、あの曇りや雨でどん
よりとした空気の中で晴れ晴れと走ったアンソニーや
他社を尻目に輝いて見せたビモータのマシンは記憶にも記録に
も残っています。

さて、昨年のオーストラリアはギャリー・マッコイがSBK
初優勝を奪いました。毎年色々なドラマがあるフィリップ
アイランドは来月です。今年はどんなことになるのか楽しみ
です。

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