しばらくレースのことを書いていなかったので、今回はレースの
ことを。

私があるイタリアのスーパースポート世界選手権に参戦していた
チームと一緒にいた年のこと。

私はチェコのブルノに世界グランプリのために出かけて、その後
ドイツのオッシャースレーベンに行くというスケジュール。

彼らはイタリアから直接ドイツのサーキットに入り、現場で
顔を合わせるということになっていました。

チェコのレースが終わり、プラハに入り、電車を乗り継いで
ライプツヒからマグデブルグを経てオッシャースレーベンに
着き、そこからありがたいことに地元の人に車に乗せて
いただいてサーキットに着きました。

ゲートに着いて、中に入ろうとすると、SBKインター
ナショナルの係の人に「あぁ、あいつはここに来ない。
ここは怪我で走らないから。」などと言われてしまいました。

全くメールで来ないのならその旨を伝えればいいのに、
こういったところはイタリア人の全く悪いところで、
私は目の前が真っ暗になりました。

とは言ってもここまで来て、チェコに戻るのも嫌だし、
レースの世界にいたいしということで、日本のレース関係の
メーカーの名前を出して、「あの部品を使っているチームが
あるから、とりあえず、中に入れてくれ。今日は水曜日で
レースファンも来ていないし、仕事なり手伝うことが他の
チームでもあるから。」と言って中に入れてもらえました。

そこから、とりあえず、その年、ユーロスーパーストックに
参戦していたチームのところに荷物を置かしてもらい、
パドックの中をぐるぐる周り、寝る場所を提供してくれる
チームを探すことになりました。

ヨーロッパ人というのはよくあいさつするのですが、
いつものように「元気か」あいさつされて、私が
「元気じゃない」と返答するといつもと違う何かがこの男に
起こったことをすぐに察知していました。当然、
イタリアのチームがここに来ないこと、この週末どうす
るか困っていることを説明しましたが、
いくらレース界で知られている男だからと言って、
急に寝泊まりする場所を用意してくれるかといったら
それは難しいですね。

それでもあきらめの悪さはオリヴィエ・ジャック並み
の私です。色々な人と交渉していて、少し休んで、また
歩いての繰り返しをしていました。

そこにヤマハフランスのガルシアがやって来ました。
いつものようにフランス語であいさつして、「元気じゃない」と
言い、怪訝そうな顔をする彼に状況を説明すると
「そういうことか。車の中で寝てもらうことになるけれど
いいか。それからホスピタリティの仕事をちょっと手伝って
もらうけれど、それでもいいか」と言ってきました。
私はもちろん、「OK!」と答えました。

助かったという思いと彼のやさしさに胸がいっぱいに
なりましたね。と同時にフランス語ができてよかったと
いう気持ちと普段からどこのメーカーやチームの人とも
言葉を交わしていたことが何かの形になることもあるの
だと思いました。

ホスピタリティというのは、ヨーロッパのサーキットでは
チームやメーカーが自分のチームのライダー、メカニック、
チームスタッフ、協力体制のある各パーツのエンジニアや
スポンサー関係の方のために朝、昼、夜と食事を出すとこ
ろですが、そこでお手伝いすることになりました。

野菜を切ったり、鍋を洗ったり、掃除をしたりということ
ですが、ここのホスピタリティというのは、スーパーバイク
のヤマハフランスとスーパースポートのドイツヤマハの
ために料理を作っていました。

でもって、シェフはフランス人が二人だったのですが、
チーフのフランス人の作る料理というのが、まぁ、すごかった。

私はそれまで色々なチームで食事をさせていただきましたが
ベストと言えるのが、このヤマハフランスだったと思います。

初めて彼の料理を食べた時に、すぐに言葉が出てこなか
ったです。

口の中でおいしさが広がり、「おいしい」と言う前に
言葉を飲み込みました。

ブーギニオンというシチューに似た料理を食べたときには
まず最初にうなりました。

また、デザートも手抜きなし。

彼に「お前はよく食べるなぁ。」と言われましたが、
正確には彼の素晴らしい料理が私に食指を動かせるといった
方が正しい。

このチームとはこのドイツと翌週のオランダと二週ご一緒
させていただき、おかげでしっかり太りましたね。

つくづくフランス語ができてよかったし、彼らの
親切心に感謝の気持ちで一杯の二週間でした。

惜しむらくはこの翌週にフランスのマニクールで
ボルドー24時間レースがあって、フランスで一番の
レースで忙しくなることは間違いないので私を一人
使う方が彼らにとっていいので誘われたのですが、
世界グランプリの仕事が入っていて、断ってしまいました。

オランダのアッセンの後、チェコのピルセンに入り、
その翌週の世界グランプリのヴァレンシアのための
打ち合わせのためにメールをチェックしようとした
私の目に入ってきた報道各社のHPの動画、静止画の映像は
飛行機がニューヨークのワールドトレーディングセンター
に突っ込んで行くものでした。

当然、日本の会社は全面的に出張中止。私も仕事を失い
ました。

フランス人と直接マニクールに行っていたら世界で一番
盛り上がる耐久レースをフランス人のホスピタリティで
おいしいものを食べながら体感できたのにと思いましたが
まぁ、仕方ないですね。

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